花札には花鳥風月を表した絵が描かれていますが、6月に描かれているのは「牡丹に蝶」。
きれいな札ですよね。牡丹が華やかで。
この絵は素敵なデザインだからか、目にすることも多いですよね。
カバンやアクセサリーとかに使われているイメージがあります。
さて、この華やかな6月の花札。
当たり前のように蝶と牡丹の組み合わせだなと思っていましたが、ふと疑問が。
そもそも、なぜこの札に牡丹と蝶が描かれることになったんだろう?
というわけで、今回もいつものように調査してみました!
ただ今回の調査はスムーズにいかず・・・。
どちらも花札に書かれた理由はわかったのですが、ちょっと謎にぶち当たる展開となりました。
牡丹と蝶が描かれた理由とともに、その謎についても書いていきたいと思います。
花札に牡丹が描かれた理由とは?
それではまず、牡丹が花札に描かれた理由から見ていきましょう。
牡丹が描かれた理由は美しく絶大な人気だったから!
花札に牡丹が描かれた理由。
それはずばり、人々を引きつける魅力的な美しい花だったからです。
花札が作られたとされている江戸時代、人々はこの大きくて華やかな牡丹にとても魅了されていました。
牡丹は初めは奈良時代に中国から薬草として伝わりましたが、その薬効よりも美しさに人々は魅了され観賞用の植物として広まるように。
その後、江戸時代になると牡丹を育てる一大ブームが巻き起こり、皆こぞって牡丹を育てたそう。
牡丹を栽培するための参考書が作られたり、様々な品種改良も行われ、なんと黒い牡丹もあったんだとか!
黒い牡丹ってカッコいいですよね!
現在は残念ながら真っ黒の牡丹はなくて、赤黒い色の牡丹を黒牡丹と呼ぶようです。
牡丹は美しいだけじゃない!縁起もよかった
また 牡丹の「丹」という字は不老不死の仙薬を意味することから、不老不死や不老長寿の意味も持っているので、牡丹は縁起のいい題材=吉祥文様として用いられることも多かったんです。
美術品にも多くの作品が残されていて、例えば伊万里焼とか、浮世絵とか、あと着物のデザインにも使われたりしています。
現在でも縁起がいいため、婚礼衣装の白無垢に牡丹のデザインがよく使われているんですよ。
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さらに牡丹は家紋のデザインとしても使われていました。
近衛家をはじめとする関白家の家紋として使われ、また姻戚関係を持った大名達にも使用が認められていましたが、江戸時代には天皇家の菊紋・桐紋、徳川家の葵紋の次に高貴で権威のある紋とされ、使用が制限されるほどでした。
中国では「花王」「花神」「富貴花」という別名があるほど高貴で美しい牡丹は、家紋にするにはうってつけだったんでしょうね。
ちなみに「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」ということわざができたのも江戸時代です。
美しい女性を例えることわざに牡丹が使われたことからも、どれだけ牡丹の美しさに惚れ込んでいたかわかりますね。
つまり牡丹は花札のデザインにぴったりの花だった!
このように美しく縁起のいい牡丹は、花札ができた江戸時代には人々に絶大な人気がありました。
つまり、その人気の牡丹を花札の絵に採用したというわけなんです。
この流れから見ると、花札の絵に描く題材として選ばれるのも納得ですよね。
想像ですが、「花札の絵何にする?」「まずは牡丹の花じゃない?縁起もいいし綺麗だからこれ絵に使おうよ!」「いいね~!」みたいな感じで決まったのかな?なんて思います。
というわけで、牡丹が描かれた理由について見てきました。
では次に、一緒に描かれている「蝶」について見ていきましょう!
蝶が花札に描かれた理由とは?
花札に描かれている牡丹と蝶はお似合いの組み合わせとは思いますが、別に他の虫や動物でも良かったはず。
なのに、なぜ蝶が選ばれたんでしょう?
- 蝶が花札のデザインに選ばれた理由
- 牡丹と一緒に描かれた理由
この順番で説明していきたいと思います。
蝶がデザインされたのは復活の象徴だったから
蝶が花札に描かれた理由は蝶の特性に関係がありました。
蝶は成長する時に、卵→幼虫→さなぎ→羽化→蝶というように形を変えて成長していきます。
つまり「姿が変わって生まれ変わる」ということから、「死んでも生き返る=回生と復活」のシンボルとして蝶は縁起のいいものとされてきました。
花札には縁起のいいものを描く傾向があるので、この蝶も縁起がいいことから理由に選ばれたと考えられています。
ちなみに、戦国時代や江戸時代には蝶をモチーフにした兜があったそう。
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デザインが奇抜だけど、たしかに「復活」のシンボルである蝶は、戦いの装備にデザインするには相応しいモチーフだったといえますよね。
縁起だけじゃない!美しさも人気だった
またきれいな羽を広げて飛ぶ蝶は美しさでも人気だったんです。
きれいな蝶をデザインに使おう!という発想は今も昔も変わらず、江戸時代には浮世絵や工芸品など蝶を配した数々の作品が残されています。
伊藤若冲(Ito Jakuchu)「芍薬群蝶図~動植綵絵(Butterflies and Peonies, from”Animals and Plants in Colors”)」(1757頃) pic.twitter.com/kq2uO4TBGI
— yuuoz (@yuuoz1) May 26, 2014
江戸時代に造られた漆香箱。雪で遊ぶ子供達、側面には、うさぎ、虎、鶴、ライオンなど縁起の良い動物が描かれています。蝶の箱だけでも可愛らしい。
— Hiroko Miyamoto (@HirokoMiyamoto7) June 5, 2021
18th、日本製。Metropolitan Museum pic.twitter.com/cvpiOBPYt1
また牡丹と同様に、美しく縁起のいい蝶は家紋としても使われました。
もともと平安時代に「平清盛」で有名な平氏が牛車に蝶の紋を使ったことから始まり、後に平氏の末裔が蝶紋を家紋として使用するように。
回生と復活という縁起の良さと、見た目の美しさから蝶紋はたちまち広まり、約三百家の幕臣の家紋になったとか。
江戸時代には大名の池田家が「丸に揚羽蝶紋」を使用していました。
このように蝶は、
- 回生と復活のシンボルとして縁起がいい
- 美しく華やか
という理由で人々に愛され、花札の題材に採用されたと考えられます。
でも、なぜ牡丹と一緒に描かれたんでしょう?
そもそも蝶と牡丹の組み合わせは昔から縁起がよかった
実はもともと牡丹と蝶は縁起の良い組み合わせとして知られていました。
中国では「牡丹と蝶と猫」の組み合わせが富貴と長寿をあらわす縁起のいい組み合わせとされ、それが日本に伝わりました。
その後、猫がいなくなった牡丹と蝶だけの組み合わせも縁起の良いものとして認知されるようになり、見た目も豪華で美しいことから人気の組み合わせとなりました。
この組み合わせは美術品にも多くデザインされていて、例えばこちらの葛飾北斎の浮世絵なんかは有名ですね。
3.江戸後期の絵師、葛飾北斎(宝暦10年-嘉永2年, 1760-1849)の錦絵揃物「西村屋版大判花鳥集」(天保3年頃, c.1832)全10図から、『牡丹に蝶』です。 pic.twitter.com/W4kZ1FRxAv
— 灯 (@akari_st) October 26, 2017
このように昔から牡丹と蝶はお決まりの組み合わせであり、縁起もよく見た目も美しいことから「牡丹に蝶」の組み合わせで花札に描かれたと考えられています。
牡丹に蝶の札の正しい置き方について
よく間違えがちなんですが、牡丹に蝶の札は牡丹が上ではなく、蝶を上に置くのが正しい置き方になります。
一番上の赤いモヤモヤとしたものは「雲」なので、雲が上に来ると考えれば覚えやすいですね。
さて、ここまで牡丹と蝶が花札のデザインに選ばれた理由を書いてきました。
牡丹も蝶も花札に描かれた理由は納得なのですが、それ以外に納得できない一つの「謎」にぶち当たりました。
ここからはその「謎」について書いていきたいと思います。
花札6月の札になぜ牡丹が描かれているのかが謎!
私がぶち当たった一つの「謎」。
それは牡丹の花が「6月の札」に描かれていることです。
確かにデザインとしての牡丹は花札にぴったりなんですが、でも「6月の札」に描かれるのは辻褄があわないことがわかったんです。
牡丹は6月には全く関係のない花
花札の背景になっている季節はどれも「旧暦」が基準になっていて、その季節にあった植物や時期の行事などが絵に描かれています。
今回の6月の札は旧暦の6月なので、今の暦でいうと6月下旬から8月上旬ごろにまつわるものが絵に描かれているはず。
ところが、牡丹が咲くのは4月~6月(見頃は4月下旬から5月頃)。
つまり、春に咲く牡丹が初夏の花札に描かれているんです。
季節が微妙にズレてる?!
これがものすごく気になっていろいろ調べてみました。
でも、これだ!という答えは見つからず。結局謎のままでした。
一応これじゃないかという説はある!
ただ、調査した中には「こうじゃないか」という説はあったので紹介しておきます。
牡丹がかかれた理由は「ぼたもちとおはぎ」が関係していた?!
花札について描かれた論文を読んでみたところ、「ぼたもち」と「おはぎ」に関係するのではないかという説がありました。
「ぼたもち」と「おはぎ」はどちらも「牡丹」と「萩」が名前の由来になっています。
春のお彼岸に食べられることから「ぼたもち」、秋のお彼岸に食べられ、萩のつぶつぶとした花が小豆に似ていることから「おはぎ」と名付けられました。
そして「ぼたもちとおはぎ」はフレーズとしてセットになっています。
このことから、6月の「牡丹に蝶」(ぼたもち)の札を7月の「萩に猪」(おはぎ)の札の前に置くことで、このフレーズを連想させ、自然に7月の札に移行させる狙いがあったのではないか。
と書かれています。
花札の図像学的考察 – CORE 注)PDFファイル
ただこの説は、確定したものではなく考察として書かれているので、スッキリ解決!とまではいきませんでした。
まとめ
- 牡丹は見た目が美しく縁起もいいことから、花札が作られた江戸時代に絶大な人気があったので、花札のデザインに選ばれた
- 蝶も縁起が良く、しかも牡丹と蝶の組み合わせは昔から定番だったため、牡丹と一緒に花札に描かれた
- ただ牡丹は花札の背景となる旧暦6月には咲かず、この月に書かれた理由はまだ謎が多い
今回はスッキリと終わらず、謎が残る展開となってしまいました。
花札はまだ不明な部分が多い分野なので、今後新しい情報が入り次第追記したいと思います!